全員が同時に話すと町は動けないんです
海辺の町の公民館で、防災の連絡訓練が始まる直前です。みんな同じ無線で一斉に話し出して、声が重なって聞き取れません。係の人が壁に地図を貼って、「話し方の決まり」を指さしました。
前回の失敗は単純でした。全員が全員に直接言おうとして、人数が増えた分だけ組み合わせが爆発したんです。長い報告は途中で切れて、遠くの大事な話が必要な人に届きませんでした。長い文章を読むAIも、全部を全部につなぐと似た渋滞が起きます。
新しいやり方は、少人数の連絡係を真ん中の机に座らせます。連絡係は全員の声を聞けて、誰でも連絡係に届きます。あとは近所の担当どうしで主にやり取りして、たまに離れた担当へ短い「抜き打ち連絡」も入れます。無線の人が言葉、つながり方が言葉どうしの参照で、狙いは雑音を増やさず意味を運ぶことです。近所+中心+ときどき遠距離で回せます。
訓練が始まると、川沿いの人が水位の話を近所のまとめ役に渡し、そこから連絡係へ行きました。連絡係は短く要点だけにして、避難所の担当へ投げます。避難所側は通れない道の情報を返して、次の動きが決まっていきました。連絡係がみんなの共通メモみたいに働くので、直接つながってなくても話が回ります。
終わったあと、誰かが聞きました。「全部の担当を、今すぐ全部と比べたいときは?」係の人はうなずきます。近道の回線がない分、何回かバトンを渡して比べることになって、遅くなる場面もあります。全部を直結する強さには、ちゃんと理由があるんです。
それでも今日は、同じ無線機と同じ時間なのに、前よりずっと大人数をさばけました。近所の会話は近所で済ませて、中心は要点だけを回すからです。長い文章や、長いDNAみたいに端から端まで遠い並びでも、全部を全部につながなくていい。壁の地図の前で、さっきの騒がしさが嘘みたいに静かでした。