出動を止める「安全のブレーキ」を外したら
海の近い町の公民館で、山火事の訓練をしていました。消防車もホースも準備できているのに、安全係が「確認の電話とハンコが先です」と出動を止めます。外の煙だけが濃くなっていきました。
進行した悪性黒色腫が広がって、前の治療も効きにくくなった人の体でも、似たことが起きます。体を守るはずの仕組みに、暴走しないためのブレーキがあって、がんがそのすき間で生き残ることがあります。
そのブレーキの一つがCTLA-4です。そこでイピリムマブという薬で、そのブレーキを押さえるやり方が試されました。人はくじ引きのように分けられて、本人も医療側も何を受けたかは途中まで分かりません。
もう一つ、gp100という「がんの目印の切れ端」を使う注射もありました。これは合う体質の印がある人だけが対象でした。訓練にたとえると、イピリムマブは安全係に見せる通行バッジで、gp100は指名手配の写真入りチラシです。つまり、バッジは出動そのものを動かし、チラシは狙いを細くするだけです。
結果は、バッジで車庫の扉が開いた感じでした。イピリムマブを受けた人たちは、gp100だけの人たちより長く生きる傾向がありました。面白いのが、gp100を足しても、イピリムマブ単独より長生きにはつながりにくかった点です。
時間の出方も少し意外です。早い時期は差が小さく見えることがあり、しばらくしてから良くなる人がいました。効いた人では長く続くこともあって、いったん悪くなってからもう一度イピリムマブを受け、持ち直す人もいました。
ただ、出動を速くすると代償も出ます。ブレーキを緩めるので、体の元気な場所まで攻撃してしまうことがあり、皮ふやお腹の不調、下痢などが起きました。落ち着かせる薬で抑えることが多い一方、重い合併症で亡くなる人もいました。訓練で言うと、ハンコを減らせば早く動けるけど、事故の見張りは別に必要になる、という感じでした。